辻
普通の取材などではなかなか掲載できないエピソードも、まだたくさんありますよね。例えば第2話で“魚面そ”がまなかの膝から出ていくときに「またね」と言うんですが、魚面そ役の田村睦心さんがアフレコのテスト時に「I'll be back!」とドヤ声で言って、みんなで爆笑したとか(笑)。
篠原
さゆちゃん役の石原さんが第16話の収録の際「知ってる? 三親等だと結婚できないんだって」というセリフを「三頭身だと結婚できないんだって」って間違えちゃってやはりみんなで大爆笑したとか。
――音声収録の話題でいえば、音響監督の明田川仁さんはどういう方でしょうか。
辻
僕は『CANAAN』からのお付き合いですので、仁さんとはもう6年ほどご一緒させてもらっています。『凪のあすから』でのエピソードで印象的なのは最終話ですね。実は最終話の挿入歌のやなぎなぎさん『mnemonic』は、本当は第25話でかけようかと準備をしていたんです。…いや、本当の本当は第18話だったり(笑)。ただギリギリまで決めかねていて、『mnemonic』バージョンと劇伴バージョンの2種類を用意していたんですよ。最終的には劇伴バージョンが採用されて、もう『mnemonic』は使われないのかな? と諦めていたら仁さんが最終話、しかもとてもいい場面で使ってくれて本当に感動しました。
篠原
僕は『花咲くいろは』が、仁さんとの初顔合わせでした。それまでは明田川さんというとお父様(明田川進さん)のイメージが強かったのですが、性格は全然違いますね。お父様は物静かで穏やかな職人気質の方。仁さんは明るく賑やかで、声優さんをのせるのが上手な方かなと。仕事上で印象的なのは選曲のセンスが抜群なこと。僕が選曲についてファーストテストからの変更をお願いしたのはトータルでも3ヶ所くらいしかないんですよ。いつもテストを聴いて上手い!って唸ってました。あと全然関係ないけど音響でのエピソードといえば、ダイエットかな?(笑)。なぜかスタッフ間、しかもプロデューサーやマネージャーさんも含めて炭水化物ダイエットが流行ったんですけど、一番真面目にやっていたのは仁さんだったよね。
辻
そうですね。結構スリムになられていました。スタジオでゴージャスなお弁当が出るのですが、メニューも徐々にヘルシーかつ単品ものが増えていきましたし(笑)。そのおかげか分かりませんが僕も3kgほど痩せました。
――音響繋がりで言うと、音響効果の小山さんの印象はいかがですか? スタッフインタビューで小山さんは、ウミウシが鳴くとは思わなかったとおっしゃってました。
辻
ウミウシの鳴き声がゴムの音を加工して作られていたのは、インタビュー記事で僕も初めて知りました。小山さんもいろいろこだわられる方で、モブキャラクターの足音のように一般的にはSEを当てるところも、そのシーンが何を伝えたいかによって、細かく音を出し入れされるんです。制作中は本当に小山さんと細かい部分で、お互いが納得する形になるまでよく話し合っていました。
篠原
あと音の質感はもちろんのこと、劇中で何を立たせそのために何を抑えるかという部分ですごく神経を使われる方。常に演出的な意図を考えた上で設計してくださってました。音づけ用のラッシュの状態が決して良くはなかった中での作業スピードも有難かった。ちなみに小山さんは、炭水化物ではなくチーズダイエットの経験者らしいよ。『凪のあすから』の現場でダイエットしてないのは僕くらいじゃない?(笑)。
辻
そうですね、監督は徐々にガリガリに…(笑)。逆に3D監督の平田(洋平)さんは大きくなりましたね(笑)。
篠原
ひどい(笑)。でもおふねひきの時の波や渦など、3D班の力がなければ絶対に完成できなかったシーンです。3Dをセルアニメで使う場合は、質感の統一に特に気を使うのですが、第13話の渦巻き発生時の波は、複雑な質感をセル調で表現することにある程度成功してると思います。まだまだ課題もありますが、限られた時間の中で本当に粘ってくださったと思います。
辻
確かに海の表現では本人もいろいろと苦労されていました。仕事とは関係ないですが仁さんも小山さんもオシャレな方ですよね。あと編集の高橋(歩)さん。
篠原
いつも颯爽としてカッコいい方ですよね。もちろん仕事の上でもすごくお世話になりました。カッティング(ひとつひとつのカット尺を決め込んでいく作業)の時には色んなアイディアを出してくださいました。その最たるものが、ご本人もこのコーナーのインタビューでお話されていた第14話。最初は回想シーンをバンク(以前使ったカットを使用すること)で挟み込む予定でしたが、高橋さんから「これ(回想)なくしちゃいましょう」と提案いただいたんです。回想をなくすことで第13話の生々しさを薄れさせ、劇中の五年の時間経過をより強く感じさせる、切なさが増す、という訳です。そのほか、本編中何度か出てくる回想シーンを繋ぐ場面は、ほとんど高橋さんにお願いしました。個人的に好きなのは第26話の光が回想する美海の積み重ねシーンで、とても美しく素敵でした。あと印象的なのは、やはり次回予告。なかでも第14話の予告には相当気を使われていたようで、2クール目が5年後から始まると予測できないような作りにしていただきました。次回予告は話数が進むごとに冴え渡っていった感じがありますね。
辻
作画の都合もあって、手元に上がった決して多くない素材だけでやりくりしていただいたので、申し訳なかったんです……。
篠原
だからこそ、斬新なアイディアが印象に残りました。第25話の予告はBG(背景美術)オンリーですし、最終話予告もほぼ、おじょしさまのカット。第17話についた第18話の予告も面白かった。いろんな人が喋っているなかで、最後に「シオシシオ」という台詞をシンクロさせてドキリとさせる。実は、僕らが予告編を観るのは、ダビング作業のときが初めてなんですよ。そこで初めて高橋さんの仕掛けを知るのですが、それが毎回楽しみでした。
辻
高橋さんの予告には次回が気になる仕掛けがたくさん入っていましたよね。
篠原
第18話につく第19話の予告も素敵でした。第19話はちさき回なので、本来はちさきをメインに持ってきたほうが絶対引きは強いんですが、まなかが目覚めてすぐなのにちさきをクローズアップすることに高橋さんはかなり抵抗を感じていらして。まなかが中心にいてこそのシリーズということを強く意識した結果、今の予告になったんですよね。単にトピック的に次回の予告を作るのでなく、作品全体の流れを大事にしてくださったことが嬉しかったです。『凪のあすから』のスタッフは、作品愛あふれる方にとても恵まれていました。本当にありがたいことです。
辻
ロゴデザインやBlu-rayなどのパッケージ周りを担当してくださったデザイナーの内古閑(智之)さんも、ロフトプラスワンでのトークショーでは、キャラクターについて熱いお話をたくさんしてくださいました。
篠原
内古閑さんは、辻くんが企画当初からお願いしたいと言っていたよね?
辻
はい。内古閑さんとは『Angel Beats!』でご一緒したんですが、今回は作品の透明感をより強調したかったので、ぜひお願いしたかったんです。
篠原
『凪のあすから』の世界観を、パッケージまで含めて外側から包んでくださった感じがあります。僕らは作品の中だけを突き詰めていきますけど、視聴者目線でモニターの外側まで見通していただけたのが、ありがたいことですね。パッケージ版のジャケットは石井(百合子)さんが描かれていますが、内古閑さんの発注のコンセプトがとても明確なので、すごく描きやすかったとおっしゃってました。
辻
ジャケットに関しては、第5巻のボックスアートで、監督と意見が割れたことがありましたよね?
篠原
氷上の傘?(笑)
辻
自分は、傘より旗のほうがいいと思っていたので(笑)。
篠原
傘は長井(龍雪)監督の専売特許的なイメージがあるので、辻くんも傘のイメージが強くなりすぎないようにと気づかってくれたんだと思うんですよ。たしかに旗は劇中でも大事なアイテムなんですが、棚に並べた時の印象としてどうしても色彩的なインパクトが薄れてしまうので、自分は傘のほうを推しました。2クール目のオープニングなどでも傘のイメージは強烈だったし、その記憶と結びつけやすくするためにも、傘でいきたかった。長井監督ファンにも手に取っていただけたら嬉しいなと(笑)。
普通の取材などではなかなか掲載できないエピソードも、まだたくさんありますよね。例えば第2話で“魚面そ”がまなかの膝から出ていくときに「またね」と言うんですが、魚面そ役の田村睦心さんがアフレコのテスト時に「I'll be back!」とドヤ声で言って、みんなで爆笑したとか(笑)。
篠原
さゆちゃん役の石原さんが第16話の収録の際「知ってる? 三親等だと結婚できないんだって」というセリフを「三頭身だと結婚できないんだって」って間違えちゃってやはりみんなで大爆笑したとか。
――音声収録の話題でいえば、音響監督の明田川仁さんはどういう方でしょうか。
辻
僕は『CANAAN』からのお付き合いですので、仁さんとはもう6年ほどご一緒させてもらっています。『凪のあすから』でのエピソードで印象的なのは最終話ですね。実は最終話の挿入歌のやなぎなぎさん『mnemonic』は、本当は第25話でかけようかと準備をしていたんです。…いや、本当の本当は第18話だったり(笑)。ただギリギリまで決めかねていて、『mnemonic』バージョンと劇伴バージョンの2種類を用意していたんですよ。最終的には劇伴バージョンが採用されて、もう『mnemonic』は使われないのかな? と諦めていたら仁さんが最終話、しかもとてもいい場面で使ってくれて本当に感動しました。
篠原
僕は『花咲くいろは』が、仁さんとの初顔合わせでした。それまでは明田川さんというとお父様(明田川進さん)のイメージが強かったのですが、性格は全然違いますね。お父様は物静かで穏やかな職人気質の方。仁さんは明るく賑やかで、声優さんをのせるのが上手な方かなと。仕事上で印象的なのは選曲のセンスが抜群なこと。僕が選曲についてファーストテストからの変更をお願いしたのはトータルでも3ヶ所くらいしかないんですよ。いつもテストを聴いて上手い!って唸ってました。あと全然関係ないけど音響でのエピソードといえば、ダイエットかな?(笑)。なぜかスタッフ間、しかもプロデューサーやマネージャーさんも含めて炭水化物ダイエットが流行ったんですけど、一番真面目にやっていたのは仁さんだったよね。
辻
そうですね。結構スリムになられていました。スタジオでゴージャスなお弁当が出るのですが、メニューも徐々にヘルシーかつ単品ものが増えていきましたし(笑)。そのおかげか分かりませんが僕も3kgほど痩せました。
――音響繋がりで言うと、音響効果の小山さんの印象はいかがですか? スタッフインタビューで小山さんは、ウミウシが鳴くとは思わなかったとおっしゃってました。
辻
ウミウシの鳴き声がゴムの音を加工して作られていたのは、インタビュー記事で僕も初めて知りました。小山さんもいろいろこだわられる方で、モブキャラクターの足音のように一般的にはSEを当てるところも、そのシーンが何を伝えたいかによって、細かく音を出し入れされるんです。制作中は本当に小山さんと細かい部分で、お互いが納得する形になるまでよく話し合っていました。
篠原
あと音の質感はもちろんのこと、劇中で何を立たせそのために何を抑えるかという部分ですごく神経を使われる方。常に演出的な意図を考えた上で設計してくださってました。音づけ用のラッシュの状態が決して良くはなかった中での作業スピードも有難かった。ちなみに小山さんは、炭水化物ではなくチーズダイエットの経験者らしいよ。『凪のあすから』の現場でダイエットしてないのは僕くらいじゃない?(笑)。
辻
そうですね、監督は徐々にガリガリに…(笑)。逆に3D監督の平田(洋平)さんは大きくなりましたね(笑)。
篠原
ひどい(笑)。でもおふねひきの時の波や渦など、3D班の力がなければ絶対に完成できなかったシーンです。3Dをセルアニメで使う場合は、質感の統一に特に気を使うのですが、第13話の渦巻き発生時の波は、複雑な質感をセル調で表現することにある程度成功してると思います。まだまだ課題もありますが、限られた時間の中で本当に粘ってくださったと思います。
辻
確かに海の表現では本人もいろいろと苦労されていました。仕事とは関係ないですが仁さんも小山さんもオシャレな方ですよね。あと編集の高橋(歩)さん。
篠原
いつも颯爽としてカッコいい方ですよね。もちろん仕事の上でもすごくお世話になりました。カッティング(ひとつひとつのカット尺を決め込んでいく作業)の時には色んなアイディアを出してくださいました。その最たるものが、ご本人もこのコーナーのインタビューでお話されていた第14話。最初は回想シーンをバンク(以前使ったカットを使用すること)で挟み込む予定でしたが、高橋さんから「これ(回想)なくしちゃいましょう」と提案いただいたんです。回想をなくすことで第13話の生々しさを薄れさせ、劇中の五年の時間経過をより強く感じさせる、切なさが増す、という訳です。そのほか、本編中何度か出てくる回想シーンを繋ぐ場面は、ほとんど高橋さんにお願いしました。個人的に好きなのは第26話の光が回想する美海の積み重ねシーンで、とても美しく素敵でした。あと印象的なのは、やはり次回予告。なかでも第14話の予告には相当気を使われていたようで、2クール目が5年後から始まると予測できないような作りにしていただきました。次回予告は話数が進むごとに冴え渡っていった感じがありますね。
辻
作画の都合もあって、手元に上がった決して多くない素材だけでやりくりしていただいたので、申し訳なかったんです……。
篠原
だからこそ、斬新なアイディアが印象に残りました。第25話の予告はBG(背景美術)オンリーですし、最終話予告もほぼ、おじょしさまのカット。第17話についた第18話の予告も面白かった。いろんな人が喋っているなかで、最後に「シオシシオ」という台詞をシンクロさせてドキリとさせる。実は、僕らが予告編を観るのは、ダビング作業のときが初めてなんですよ。そこで初めて高橋さんの仕掛けを知るのですが、それが毎回楽しみでした。
辻
高橋さんの予告には次回が気になる仕掛けがたくさん入っていましたよね。
篠原
第18話につく第19話の予告も素敵でした。第19話はちさき回なので、本来はちさきをメインに持ってきたほうが絶対引きは強いんですが、まなかが目覚めてすぐなのにちさきをクローズアップすることに高橋さんはかなり抵抗を感じていらして。まなかが中心にいてこそのシリーズということを強く意識した結果、今の予告になったんですよね。単にトピック的に次回の予告を作るのでなく、作品全体の流れを大事にしてくださったことが嬉しかったです。『凪のあすから』のスタッフは、作品愛あふれる方にとても恵まれていました。本当にありがたいことです。
辻
ロゴデザインやBlu-rayなどのパッケージ周りを担当してくださったデザイナーの内古閑(智之)さんも、ロフトプラスワンでのトークショーでは、キャラクターについて熱いお話をたくさんしてくださいました。
篠原
内古閑さんは、辻くんが企画当初からお願いしたいと言っていたよね?
辻
はい。内古閑さんとは『Angel Beats!』でご一緒したんですが、今回は作品の透明感をより強調したかったので、ぜひお願いしたかったんです。
篠原
『凪のあすから』の世界観を、パッケージまで含めて外側から包んでくださった感じがあります。僕らは作品の中だけを突き詰めていきますけど、視聴者目線でモニターの外側まで見通していただけたのが、ありがたいことですね。パッケージ版のジャケットは石井(百合子)さんが描かれていますが、内古閑さんの発注のコンセプトがとても明確なので、すごく描きやすかったとおっしゃってました。
辻
ジャケットに関しては、第5巻のボックスアートで、監督と意見が割れたことがありましたよね?
篠原
氷上の傘?(笑)
辻
自分は、傘より旗のほうがいいと思っていたので(笑)。
篠原
傘は長井(龍雪)監督の専売特許的なイメージがあるので、辻くんも傘のイメージが強くなりすぎないようにと気づかってくれたんだと思うんですよ。たしかに旗は劇中でも大事なアイテムなんですが、棚に並べた時の印象としてどうしても色彩的なインパクトが薄れてしまうので、自分は傘のほうを推しました。2クール目のオープニングなどでも傘のイメージは強烈だったし、その記憶と結びつけやすくするためにも、傘でいきたかった。長井監督ファンにも手に取っていただけたら嬉しいなと(笑)。