INTERVIEW インタビュー

 

――以前のインタビュー(第01回〜第03回)では、作品全体についてお聞かせいただきましたが、今回はオンエアが終わった今だからこそお話できることや、スタッフの皆さんについてお聞かせいただこうと思います。


制作現場の大変だったエピソードなら、たくさん思い出すんですけど(笑)。

篠原
最終回の作業が終わってしばらくは生活リズムが戻らなかったんですよ。それこそオンエアが終わったあとも朝7時に寝る生活が続いていたんだけど(起床はギリギリ午前中)、最近になってやっと復調しました。今は毎日がゆる〜く過ぎているので「本当にこれでいいのか?」と逆に不安になってます(笑)


監督も重大な責任感から解放されたので、安心されてたのではないですか?

篠原
もちろん気持ちの問題は大きいよね。今も別作品のコンテを見たりシナリオを読んだりと、『凪のあすから』制作中とあまり変わらない作業をしているけど精神面ではずいぶん違います。でもそれは辻くんも一緒でしょう? 今回は、堀川(憲司/P.A.WORKS代表取締役)さんが直接関わらない現場だったから。


そうですね、いつもよりはずっと任せてもらえました。その分プレッシャーは相当なものでした。仕切りが甘く…スケジュールも過去最高に押しましたし…。

篠原
本当は、堀川さんが口を出したい部分もたくさんあったと思うんですよ。でもあえて言わない。偉いというか……凄いなぁと思いました。


設定資料集(『凪のあすから』設定資料集 デトリタス)に、堀川と僕の対談記事を掲載させてもらったんですが、制作中に堀川が言わなかったぶん、僕に対する話もたくさん出てきまして……取材時は緊張感がありました(笑)。詳しい内容については設定資料集を見ていただければと。

――篠原監督は『凪のあすから』の作業が終えられて、気分転換はされましたか? 写真を撮るのがご趣味で、いつも一眼レフカメラを持ち歩いていらっしゃるそうですが。

篠原
いつも絵になるもの、透明感のあるものを探してるというのはあります。印象的な光だったり影だったり映り込みだったりコントラストだったり。中でも空や雲の写真を撮るのは大好きです。実は東地(和生/美術監督)さんも同じで、いろいろな空の写真を撮られてます。「このシーンはどんな感じの空にしましょうか?」って話し合うとき、僕が自分で撮った写真を参考に出して「こんな感じがいい」とお伝えするんですが、たいてい「その方向ならもっといい参考がありますよ」とおっしゃって、ご自分のライブラリから空の写真を出される。二人とも自分の撮った空の写真が大好きっていうね(笑)。最終的には素晴らしい空になるので、だんだんこちらからは提示しなくなりましたが。


東地さんは画作りの作業でも、ご自分が「こうしたい」と思うことがあっても直接推されることはありないですよね。サンプルを持ってこられて「みなさんがよければこの方向で進めます」と、こちらの意見も聞いていただける。でもその問いかけ方には東地さんの強い意志が入っているような気がします(笑)。海の中の木の描き方も、東地さんの「青だけじゃなく、赤も入れたほうがいいんじゃないか?」というアイディア。もちろんそれだけの説得力があるからこそ、反対意見などは出ないんですよね。あ、自分は反対派でしたけど(笑)。

篠原
特に監督と名の付くポジションの方は、そういう強い主張がなくてはダメだと思うし、いいアイディアを思いついたら、それを通すための根回しも必要なこと。そういう部分があるからこそいい作品になるんだよね。『凪のあすから』は、その東地さんのこだわりの部分に随分助けられました。

――では監督が東地さんらしさを感じられた美術ボードは?

篠原
どれもそうですけど、『凪のあすから』の世界を決定づけたという意味では“サヤマート”の美術ボードです。今は船を改造したようなお店になっていますが、もともとは普通の2階建て木造民家で、その1階がお店になる予定だったんです。でもそれだと後々ファンタジックな世界観が出しにくくなると別のアイデアを出してくれました。それが今のサヤマートです。どことなく漂う沖縄感も気に入ってすぐにOKを出しました。実現はできませんでしたが、東地さんは、同じような船の改造商店が何隻も並んでいるような商店街を描きたいと思われていたんですよ。

――船のイメージは随所に現われていましたね。

篠原
そうですね。塩澤(良憲/美術設定)さんのアイディアから生まれた漁協の前の大きな錨や広告の舵輪のマークなど、船や海のイメージはいたるところにありました。


あと塩澤さんの設定で言うと、ファンブック(『凪のあすから』ファンブック アクアテラリウム)に寄稿されたイラストには、海へ続くレールとターンテーブルという画もありました。
篠原
そうそう。初期段階では海の中にもレールが通じていて、鉄道が行き来しているアイディアもあったんだよね。

――2クール目、引っ越した美海の家の前に線路があったのもその名残ですか?

篠原
あれは、話数を重ねるとどうしても同じような風景が続いてしまうので、新たなランドマーク的なモチーフが欲しいと相談したら、塩澤さんがレール跡を描いてくださったんです。塩澤さんご自身もどこかで使いたいと思っていたのかも。ただ美海の家は第15話から登場しているのに、家の前に線路があることは描かれていなかったんですよ。第25話で初めて登場して皆さんビックリしたのではないでしょうか(笑)。でも世界に奥行きを与えるいい設定です。

――やはり『凪のあすから』の世界観の構築は東地さん、塩澤さんのお力も大きいですね。

篠原
そうですね。でもその他のスタッフの方の力も大きいです。美術ボードも前半は東地さんが密に描かれていましたが、2クール目以降は美術監督補佐の本田(敏恵)さんが描かれることも多くなりました。


東地さんと本田さんとの会話を聞いてると、「本田さん、ここ描いてみない? 面白くやっちゃっていいよ?」「いえ、東地さん描いてください」というやりとりも多かったですけどね(笑)。

篠原
本田さんは打ち合わせの際は飄々としてる方なんですが、背景あがりには遊び心がたっぷり、女性らしい繊細さ優しさのある色遣いなどとても良かった。鴛大師の風景の何気ない面白いアイディアは本田さんを含め若い女性背景スタッフからも数多くあがってきてるんです。本田さんの話題はなかなか取材でも話す機会がないから、こういう場でぜひお名前を憶えておいていただきたいですね。