――『凪のあすから』に参加されることになった経緯をお聞かせください。
本編が始まる1年以上前のPV制作の際に、辻プロデューサーから声を掛けていただきました。今まで補佐的な立場で作品に参加することはあったのですが、色彩設計として1人でTVシリーズに携わるのは初めてでした。それに私もフリーになってすぐのことだったので、全26話という長丁場をしっかり乗り切れるのか不安もありました。ただせっかくのお声掛けでもありますので、挑戦させていただきました。
――菅原さんにとって初挑戦の多い作品が、舞台として海中も登場するファンタジーでオリジナルの恋愛ストーリーというのは、ハードルも高かったのではないでしょうか?
そうですね。それまで落ち着いた作品ばかり手がけてきたので、篠原監督からお話を聞き、「今までやったことがない作品だけど大丈夫かな?」という不安はありました。でも恋愛物はかなり好きなので楽しみでもありました。
――そもそも「色彩設計」とはどういうお仕事でしょうか。
BG(背景美術)に合わせて、“セル”にのるキャラクターや小物の色味を決める仕事です。『凪のあすから』での最初の作業はキービジュアルの色彩設計でした。4人のメインキャラクターはブリキさんの原画になるべく近づけるようにと色をつけたので、紡はかなり色白。男女であまり差をつけずに肌色をつけていました。でも本編で同じことをすると、紡は漁を手伝っている設定なのでの肌が白すぎて浮いてしまう。本編作業では、肌色はかなり調節しました。
――キャラクターの瞳の色も特徴的ですよね。
海村の人々の青い瞳の色、彩度などは、篠原監督や辻さんともいろいろ詰めていったので決まるまでに紆余曲折ありました。あと海中の表現については、線の色と影の色は青っぽくしています。海中のシーンは別の色が発生すると考えなければならないので、単純に作業量は2倍になりました。うろこ様の祠などの暗いシーンだと、逆に青味が浮いてしまうんですが、あえてそのままにしていますし、海っ子たちには随所に青色を入れるようにして、地上の子たちとは差別化しています。
――海と陸のハーフ、クォーターの子たちをどう表現するかも、この作品の特徴ですね。
美海はハーフなので瞳の下の部分に青色を入れていましたが、キャラクターの色味を決める最初の頃、紡のようなクォーターの人については特別話が出なかったんです。後でエナができるなら、徐々に瞳の色が変わるというのも良かったかもしれません。監督は、美海の瞳をすごく気に入ってくれて嬉しかったです。
――キャラクターで、色を決める際にいちばん悩んだのは誰ですか?
うろこ様の瞳ですね。海村の中でも偉い立場なので、瞳も単なる青色ではなく瞳孔にピンクのような色を入れました。青色にピンクは「大丈夫かな?」という意見もあったのですが、私のほうで推させてもらいました。実際には、けっこう上手くいったのではと思います。うろこ様は登場人物の中でいちばんファンタジーな人なので、眉毛の色など考えるところは多かったです。
――洋服や小物についてはいかがでしたか?
2クール目から世界も変わりますから、すべてが新規素材。第14話からの作り直しは大変でした。1クール目は夏なので、バキッとした影の濃さが強調されますが、2クール目は景色も冬。すべてコントラストを抑えめにしています。『凪のあすから』は舞台が海と陸なので単純に色数も多いですし、たとえ同じ背景でも、どの場所にキャラクターが立っているかによって色味も変えなければいけない。作業が繊細な分とても大変でした。
――『凪のあすから』はキャラクターの色味が、心情の変化とも密接にリンクしていますよね。
特に影の使い方がそうでした。“心情落し”というんでしょうか……1カットだけポンッと青く色を落とすカットが第1話から最終話まで登場しているのも、私にとっては初めての経験でした。全体を通じて、影つけは大変でした。
――菅原さんはP.A.WORKS作品に深く関わるのは初ですが、P.A.WORKSの制作スタイルにどんな印象を持ちましたか?
今まで色彩についての感想をスタッフの方から直接聞くことはあまりなかったのですが、「あのシーン良かったよ!」など、いろいろ感想を言ってくださるスタッフさんが多くて、皆さんからの愛情をとても感じました。今までとは違う、みんなで意見を言い合う環境は私も初めての経験でした。
――その中でも美術監督の東地さんとはやりとりも多かったのではないでしょうか?
これまで美術監督と直でやり取りする現場はなかったんですが、今回はP.A.WORKS内の席もお隣なので、最後まで細々と相談させていただきながら進めていけました。まだ背景が上がって来ない段階でも、東地さんにキャラクターの立ち位置による色の違いを相談できましたし、とても助かりました。最終話ラストの光とまなかがふたり並んでいるカットも、東地さんからはもっと暖色系の瞳のハイライトを使って欲しいというアドバイスがあったのも印象的です。
――菅原さんは本編作業だけでなく、版権イラストに関わる作業も多かったそうですね。
BGが上がってきたら、それに合わせて色を決め、石井(百合子/キャラクターデザイン・総作画監督)さんにチェックしていただく流れなのですが、印刷物にすると瞳の青色が上手く出ないんです。アニメの画はカラーモードもRGBモードで彩色するのですが、印刷物はCMYKモードなんです。印刷するとどうしても瞳の中の色が沈んでしまうので、なるべく彩度を上げて塗ってお渡しするようにしました。アニメ本編はBGに合わせてキャラをなじませる色使いを心掛けていますが、版権は逆にキャラを浮かせる色使いを意識しています。Rayさんの「lull 〜そして僕らは〜」(1クール目のオープニングテーマ)のCDジャケットは、瞳だけ明るめな色づかいをしていますが、それを監督がご覧になって、本編でまなかがウミウシに話しかけるシーンで、同じように瞳だけ目立たせる色使いにしてほしいというオーダーがありました。
――『凪のあすから』はファンタジーなストーリーも魅力でしたが、菅原さんが子供の頃にお好きだったファンタジー作品は?
子供時代は『ピーターパン』のアニメが大好きでした。大人になって観ると、なんてコイツはわがままなんだと思いますよね(笑)。子供の頃に読んだ後日談では、ウェンディの孫をピーターパンが連れていくんですが、ウェンディがピーターパン以外と結婚してしまったと知ってショックでした!
――では最後に、『凪のあすから』は菅原さんにとってどんな作品になりましたか?
ひと言で表すなら“挑戦”。初めて挑戦するTVシリーズでしたし、初めて挑戦する明るい色味の作品。篠原監督もすごく色味にこだわる方で、チェックをしてもらってOKでも、違う色味でもうひとつ作って見せてみてくれないかと、違う可能性を試されることも多くありました。石井さんも、色味のことも考えて頂きながらイラストを描いてくださいましたし、皆さんのこだわりがあってこその『凪のあすから』だったと思います。
本編が始まる1年以上前のPV制作の際に、辻プロデューサーから声を掛けていただきました。今まで補佐的な立場で作品に参加することはあったのですが、色彩設計として1人でTVシリーズに携わるのは初めてでした。それに私もフリーになってすぐのことだったので、全26話という長丁場をしっかり乗り切れるのか不安もありました。ただせっかくのお声掛けでもありますので、挑戦させていただきました。
――菅原さんにとって初挑戦の多い作品が、舞台として海中も登場するファンタジーでオリジナルの恋愛ストーリーというのは、ハードルも高かったのではないでしょうか?
そうですね。それまで落ち着いた作品ばかり手がけてきたので、篠原監督からお話を聞き、「今までやったことがない作品だけど大丈夫かな?」という不安はありました。でも恋愛物はかなり好きなので楽しみでもありました。
――そもそも「色彩設計」とはどういうお仕事でしょうか。
BG(背景美術)に合わせて、“セル”にのるキャラクターや小物の色味を決める仕事です。『凪のあすから』での最初の作業はキービジュアルの色彩設計でした。4人のメインキャラクターはブリキさんの原画になるべく近づけるようにと色をつけたので、紡はかなり色白。男女であまり差をつけずに肌色をつけていました。でも本編で同じことをすると、紡は漁を手伝っている設定なのでの肌が白すぎて浮いてしまう。本編作業では、肌色はかなり調節しました。
――キャラクターの瞳の色も特徴的ですよね。
海村の人々の青い瞳の色、彩度などは、篠原監督や辻さんともいろいろ詰めていったので決まるまでに紆余曲折ありました。あと海中の表現については、線の色と影の色は青っぽくしています。海中のシーンは別の色が発生すると考えなければならないので、単純に作業量は2倍になりました。うろこ様の祠などの暗いシーンだと、逆に青味が浮いてしまうんですが、あえてそのままにしていますし、海っ子たちには随所に青色を入れるようにして、地上の子たちとは差別化しています。
――海と陸のハーフ、クォーターの子たちをどう表現するかも、この作品の特徴ですね。
美海はハーフなので瞳の下の部分に青色を入れていましたが、キャラクターの色味を決める最初の頃、紡のようなクォーターの人については特別話が出なかったんです。後でエナができるなら、徐々に瞳の色が変わるというのも良かったかもしれません。監督は、美海の瞳をすごく気に入ってくれて嬉しかったです。
――キャラクターで、色を決める際にいちばん悩んだのは誰ですか?
うろこ様の瞳ですね。海村の中でも偉い立場なので、瞳も単なる青色ではなく瞳孔にピンクのような色を入れました。青色にピンクは「大丈夫かな?」という意見もあったのですが、私のほうで推させてもらいました。実際には、けっこう上手くいったのではと思います。うろこ様は登場人物の中でいちばんファンタジーな人なので、眉毛の色など考えるところは多かったです。
――洋服や小物についてはいかがでしたか?
2クール目から世界も変わりますから、すべてが新規素材。第14話からの作り直しは大変でした。1クール目は夏なので、バキッとした影の濃さが強調されますが、2クール目は景色も冬。すべてコントラストを抑えめにしています。『凪のあすから』は舞台が海と陸なので単純に色数も多いですし、たとえ同じ背景でも、どの場所にキャラクターが立っているかによって色味も変えなければいけない。作業が繊細な分とても大変でした。
――『凪のあすから』はキャラクターの色味が、心情の変化とも密接にリンクしていますよね。
特に影の使い方がそうでした。“心情落し”というんでしょうか……1カットだけポンッと青く色を落とすカットが第1話から最終話まで登場しているのも、私にとっては初めての経験でした。全体を通じて、影つけは大変でした。
――菅原さんはP.A.WORKS作品に深く関わるのは初ですが、P.A.WORKSの制作スタイルにどんな印象を持ちましたか?
今まで色彩についての感想をスタッフの方から直接聞くことはあまりなかったのですが、「あのシーン良かったよ!」など、いろいろ感想を言ってくださるスタッフさんが多くて、皆さんからの愛情をとても感じました。今までとは違う、みんなで意見を言い合う環境は私も初めての経験でした。
――その中でも美術監督の東地さんとはやりとりも多かったのではないでしょうか?
これまで美術監督と直でやり取りする現場はなかったんですが、今回はP.A.WORKS内の席もお隣なので、最後まで細々と相談させていただきながら進めていけました。まだ背景が上がって来ない段階でも、東地さんにキャラクターの立ち位置による色の違いを相談できましたし、とても助かりました。最終話ラストの光とまなかがふたり並んでいるカットも、東地さんからはもっと暖色系の瞳のハイライトを使って欲しいというアドバイスがあったのも印象的です。
――菅原さんは本編作業だけでなく、版権イラストに関わる作業も多かったそうですね。
BGが上がってきたら、それに合わせて色を決め、石井(百合子/キャラクターデザイン・総作画監督)さんにチェックしていただく流れなのですが、印刷物にすると瞳の青色が上手く出ないんです。アニメの画はカラーモードもRGBモードで彩色するのですが、印刷物はCMYKモードなんです。印刷するとどうしても瞳の中の色が沈んでしまうので、なるべく彩度を上げて塗ってお渡しするようにしました。アニメ本編はBGに合わせてキャラをなじませる色使いを心掛けていますが、版権は逆にキャラを浮かせる色使いを意識しています。Rayさんの「lull 〜そして僕らは〜」(1クール目のオープニングテーマ)のCDジャケットは、瞳だけ明るめな色づかいをしていますが、それを監督がご覧になって、本編でまなかがウミウシに話しかけるシーンで、同じように瞳だけ目立たせる色使いにしてほしいというオーダーがありました。
――『凪のあすから』はファンタジーなストーリーも魅力でしたが、菅原さんが子供の頃にお好きだったファンタジー作品は?
子供時代は『ピーターパン』のアニメが大好きでした。大人になって観ると、なんてコイツはわがままなんだと思いますよね(笑)。子供の頃に読んだ後日談では、ウェンディの孫をピーターパンが連れていくんですが、ウェンディがピーターパン以外と結婚してしまったと知ってショックでした!
――では最後に、『凪のあすから』は菅原さんにとってどんな作品になりましたか?
ひと言で表すなら“挑戦”。初めて挑戦するTVシリーズでしたし、初めて挑戦する明るい色味の作品。篠原監督もすごく色味にこだわる方で、チェックをしてもらってOKでも、違う色味でもうひとつ作って見せてみてくれないかと、違う可能性を試されることも多くありました。石井さんも、色味のことも考えて頂きながらイラストを描いてくださいましたし、皆さんのこだわりがあってこその『凪のあすから』だったと思います。