INTERVIEW インタビュー

 

――まずは高橋さんが『凪のあすから』に参加された経緯をお聞かせいただけますか。

初めて『凪のあすから』のことを聞いたのは、実はずいぶん前になります。確か吉祥寺で辻(充仁/アニメーションプロデューサー)さんと打ち合わせをしている時、「次は海を舞台にした作品をやりたいと思っているんです」と言われて、しかも深海が舞台というようなニュアンスだったので、「いいねぇ、ジェームズ・キャメロンの『アビス』みたいなのをやろうよ!」と返事をした気がします。結局、全然違いましたけど(苦笑)。それから約1年後、『劇場版 花咲くいろは. HOME SWEET HOME』の頃に正式に話をいただきました。概要などを聞いた時は、実にP.A.WORKSさんらしい作品になるなと思いましたね。

――高橋さんが担当されている編集の仕事内容を、簡単にご紹介いただけますか。

アニメの編集は、とても分かりにくい仕事です。実写なら、同じ芝居をしていてもいろんなアングルのカットがあるので、その中からいいカットを繋いでいくんですが、アニメは作画の前に絵コンテがありますから、カットを選ぶ作業はほぼ必要がない。ただ、撮影さんから上がってきた動画を順番通り繋いだだけでは、放映時間の尺をたいていオーバーしているので、その調整をします。画そのものを切ったり、キャラクターの芝居と芝居の間を詰めたり。そうして出来上がった動画を、声を収録するアフレコスタジオに送り出すのが、主な仕事ですね。

――『凪のあすから』の映像をご覧になっての第一印象はいかがでしたか?

好き嫌いは抜きにして、「ヒットするだろうな」と思いましたね。物語もキャッチーだし、キャラクターも可愛い。第5〜6話の編集が終わったあたりで、2クール目は5年の歳月が経過すると聞いて、ますます視聴者もハマるだろうなって。それもあって、第14話は、より面白くなるような編集を心掛けました。

――『凪のあすから』は海が舞台になりますが、編集で気を使う部分はありましたか?

音は海に入ると多少エコーがかかるので、その収まり方は若干気にして編集しました。あと、普通は声優さんの声と口の動きを編集で合わせることもするのですが、海の中は常に水が動いているので簡単に編集できないんですよね。なるべく合わせるようにするなど、技術的に気をつけなければいけない部分は他作品に比べて多かったです。あと、篠原監督と話し合って、1クール目は黒コマを印象的に使うというのがありました。特に、海村が将来冬眠に入ると聞いたあたりからは、不安感の表現として黒コマをよく使っています。

――篠原監督とのお仕事は『花咲くいろは』から続いていますが、監督にはどんな印象をお持ちですか?

『花咲くいろは』から印象は変わらず、また一緒にお仕事をさせていただきたいと思う監督さんですね。堅実ですが、ものすごくこだわりが感じられ、そのこだわりが自分と重なる部分もあって、一緒に仕事をしていてとても面白いです。また編集の現場でもいろんなことを試させてくれるんです。例えば第14話だとコンテには回想シーンが多かったんですけど、それをなくそうという僕の意見を採り入れてくれましたし。

――印象的な話数、シーンはどこでしょうか?

思い入れがあるのは、先ほども話した第14話ですね。コンテから1クールの画を使った回想シーンを外したり、「これ、『凪のあすから』だよね?」と視聴者に思わせるくらいの振り幅をつけようと思っていました。実際、第13話までは普通のアニメのテンポで編集していたんですが、第14話ではキャラクターを動かさないで間を長めに取ったりと、実写的な編集を意識的に行っていました。あと個人的には次回予告。音響監督が次週分の台詞を抜いて作ることはよくありますが、実は『凪のあすから』の次回予告は編集が作っています(笑)。篠原監督も自由にやらせてくて、個人的には物語に絡むキャラクターは、予告に一度は出してあげたいと思いながら、かなり楽しんで作らせていただきました。辻さんには「まさか狭山まで出てくるとは思わなかった」と驚かれましたけど(笑)。

――ちなみに、高橋さんのお気に入りのキャラクターは誰ですか?

ダントツで晃ですね。終盤の話数を観ると超可愛いんですよ。その次は狭山かな。彼の存在はとても便利なので(笑)。女性キャラクターなら、ちさき、さゆがいいですね。ウルッとくるシーンも多いですし、応援したくなります。

――話は変わりますが、『凪のあすから』は海を舞台にしています。高橋さんは海派ですか? 山派ですか?

僕は北海道の旭川生まれで山に囲まれて育ったので、もともと海にはあまりなじみがないんです。ただ、小学校、中学校時代にロードバイクのサークルに入っていたので、毎年、旭川から留萌という海辺の町まで自転車で走るんですね。海を見られると思い、毎回ワクワクしてました。海に憧れはあるので、将来、許されるなら海の近くに住みたい願望があります。できれば日本海側ではなく太平洋側。『花咲くいろは』よりは『凪のあすから』の1クール目のような海がいいですね(笑)。

――これもみなさんに伺っていますが、『凪のあすから』はファンタジー物語ともいえます。小さい頃に夢中になった絵本や童話はありますか?

絵本なら海外物の『風が吹くとき』。原爆を扱った作品なのでとても怖かったんですが、何度も読みました。ファンタジーという括りだと、『ムーミン』や『バーバパパ』とか。映画『ネバーエンディング・ストーリー』も印象に残っています。あと僕が編集した実写版『魔女の宅急便』は、正統的なファンタジー作品なので、ファンタジーに縁がないわけではないんですよ(笑)。

――最後に『凪のあすから』は高橋さんにとってどんな作品でしょうか?

僕も毎話、編集するたびにいい作品だなと実感しましたし、キャラクターたちの気持ちの行方や最終話がどうなるのかが、とても気になりました。またP.A.WORKSさんが手掛ける作品はクオリティ、志が高く、作り手としても安心感があります。その意味でも『凪のあすから』は、誰に対しても「これ、面白いですよ!」と堂々と言える作品ですね。