――P.A.WORKSに入社されて8年。3D監督としては『TARI TARI』に続いて2作目となりますが、まずは平田さんのお仕事内容を簡単にご紹介いただけますでしょうか。
『凪のあすから』で言えば船やクルマ、背景の奥を歩いているモブキャラクター、港あたりを飛んでるカモメなど、情景に登場する物を3DCGでモデリングして、動きをつけるのが3Dチームの仕事です。3D監督としては、チームメンバーに制作を割り振りして仕上がりをチェックし、篠原監督や演出さんに見てもらう役割になります。
――最初に『凪のあすから』の企画をお聞きになった時、どんな印象を受けましたか?
昔は海を材材にした作品は多かったじゃないですか。そのイメージからすると、3Dをどこで使うのかが思いつかなかったので、篠原監督から最初に世界観の説明を伺った時は、あまり3Dは使わなそうだなと思ってました(苦笑)。
――実際、作業が始まるとそんなことはなかったと(笑)。まずは何から作られたのでしょうか?
PVの魚が泳いでいるカットと波打ち際のカットですね。本編では、作画用の3Dレイアウト(※建物などを3Dであらかじめ組んでおき、大枠のレイアウトを決め込んだもの)に使う建物などのモデリングを最初に作りました。基本的に美術設定が上がってきたものから順に作っていくので、最初は光の家だったと思います。
――制作物もかなりの量になりますよね? 特に『凪のあすから』は海中の魚もそうですね。
はい、魚は大量に使うことが分かっていましたから、ある程度、魚が泳いでいる素材を先に作ってしまい、配置は撮影さんにお願いしました。特定の意図した動きがない限り、撮影さんの判断で処理してもらってます。
――魚は、どのくらいのパターンを作られたのでしょうか?
いろいろなレイアウトにも対応できるよう、カメラアングルに合わせて準備したので40以上はあったと思います。魚の種類自体はそれほどでもないんですが、クラゲなんかも作りました。あまり登場しなかったですけど(苦笑)。僕が担当してはいないのですが、P.A.WORKS作品で魚が出てきたのは、『花咲くいろは』で菜子が主役の回(第18話 「人魚姫と貝殻ブラ」)がそうですね。
――ちなみに魚のような生き物と建物では、どちらが作りやすいのですか?
両者を比べると、形がハッキリしている工業製品や建物のほうが作りやすいです。生き物や流線型の物体は、曲面の調整が難しいですね。
――漁船の3Dモデルが登場したのはP.A.WORKS作品初と伺いましたが、どのように作られたのでしょうか?
あの漁船は実物ではなくプロップ設定をもとにしているので、実際の漁船に比べて丸みがあるんです。漁船に限らず、『凪のあすから』の3Dは全体に丸みをつけて欲しいというオーダーがあったので、車や建物にも丸みはつけていますね。
――では『凪のあすから』でいちばん苦労された3Dは?
第13話で海が荒れたときの渦や水柱ですね。本当にその描写は悩んだ所で例えば水柱でしたら、元になる素材を何パターンか作り、それをカットごとに細かく調整していきました。
――平田さんの印象に残っている3Dシーンも第13話ですか?
そうですね。あとは第1話で、光が玄関のドアを開けて登校する場面で魚がぶわっと広がっていったシーン。大事な第1話目ということもあり、担当スタッフにも何度も修正してもらったので思い入れがあります。
――『凪のあすから』はファンタジーな内容を含んでいますが、その部分で他の作品に比べて意識されたことはありますか?
今までのP.A.WORKS作品だと、現実との整合性を優先して作る場合が多かったのですが『凪のあすから』は篠原監督・演出さんのイメージを優先して、それぞれのカットでシーンの雰囲気を重視した調整していきました。全体にスローライフ感を盛り込みたいという監督の考えもあり、車のスピードもリアルではなく、かなり遅めの動きをつけています。劇中に登場するオート三輪も、実際に走っている動画を参考にしながら調整しました。また、乗っているときは窮屈な感じにしたいと監督が言われたので、車自体もちょっと小さめに作っています。物が丸かったり小さかったりすることで、作品全体に可愛らしい感じを持たせられればと。
――ほかに『凪のあすから』ならではの3Dでの表現というと、エナやぬくみ雪がありますよね。
そうですね。ただ同じエナでも作画と撮影のエフェクトで処理しているものもあります。第16話で海に入った美海の前に漂っていたり美海が覚醒したときのエナ、ぬくみ雪の結晶などは3Dです。どちらも結晶状のものなので、どう差別化するかは篠原監督にお聞きして詰めていきました。
――エナの破片の形は、平田さんのが決められたのでしょうか?
篠原監督の意見を参考に、何パターンか用意して選んでいただきました。あと第6話や第14話の巴日のシーンでキラキラ舞っていたのも3Dです。魚と同じで、こちらで配置や動きを用意するパターンと、事前に準備した素材を撮影さんに処理していただくパターンがありました。普段は処理の仕方などに関して監督と打合せする場合がほとんどで直接、撮影さんと打合せする事はほぼ無いのですが、第13話だけは大変そうだと分かっていたので(笑)、主要スタッフの打ち合わせに3Dも参加して、どこは作画と撮影で処理するか、どこは3Dが担当するかをすり合わせしました。
――魚もぬくみ雪、エナも登場するシーンは多いですから、モデリングだけでなく、動きのチェックも予想以上に大変だったのではないでしょうか。
そうですね、魚の場合はチェックをするにしても、僕が魚の動きそのものを理解していないといけませんから、個人的に勉強しなければいけないのは大変でしたね。
――まさに『凪のあすから』ならではのご苦労ですね。また、ストーリーが前半と後半で5年の時が過ぎているというのも本作の特徴ですが、3D作業で違いはありましたか?
作業のスタンスは変わりませんが、5年後の世界は以前よりさびれている世界観だという話を聞いていましたので、モブキャラクターや車の数を減らすなどの調整をしてあります。
――ここからはみなさんにお聞きしている質問です。『凪のあすから』には海と陸の人々が登場しますが、平田さんは海派ですか? 山派ですか?
海派です。P.A.WORKSに入るまでは海が近い街に住んでいたので、なじみがありますね。作業前に、3Dチームで石川県の“のとじま水族館”に魚を見に行ったりもしました。
――では、『凪のあすから』はファンタジー要素が強い作品ですが、平田さんが子供の頃お好きだったファンタジー物語、絵本はありますか?
読んで好きだった絵本は、『ロボットのくにSOS』です。小さい頃からロボットなどのプラモデルが好きだったので、それで印象に残っています。
――最後になりますが、平田さんにとって『凪のあすから』はどんな作品になりましたか?
『凪のあすから』は、枠に囚われない自由な雰囲気で作業をさせていただいた作品です。自分が勉強しなければならない部分をあらためて教えてもらいました。3Dソフトの使い方はもちろん、アイディア力や発想力の違いも仕上がりに差を生みます。以前は作画でやっていた部分も、最近は3Dで受け持つことが増えていますし、今後も作品に貢献出来るように勉強を続けていきたいですね。
『凪のあすから』で言えば船やクルマ、背景の奥を歩いているモブキャラクター、港あたりを飛んでるカモメなど、情景に登場する物を3DCGでモデリングして、動きをつけるのが3Dチームの仕事です。3D監督としては、チームメンバーに制作を割り振りして仕上がりをチェックし、篠原監督や演出さんに見てもらう役割になります。
――最初に『凪のあすから』の企画をお聞きになった時、どんな印象を受けましたか?
昔は海を材材にした作品は多かったじゃないですか。そのイメージからすると、3Dをどこで使うのかが思いつかなかったので、篠原監督から最初に世界観の説明を伺った時は、あまり3Dは使わなそうだなと思ってました(苦笑)。
――実際、作業が始まるとそんなことはなかったと(笑)。まずは何から作られたのでしょうか?
PVの魚が泳いでいるカットと波打ち際のカットですね。本編では、作画用の3Dレイアウト(※建物などを3Dであらかじめ組んでおき、大枠のレイアウトを決め込んだもの)に使う建物などのモデリングを最初に作りました。基本的に美術設定が上がってきたものから順に作っていくので、最初は光の家だったと思います。
――制作物もかなりの量になりますよね? 特に『凪のあすから』は海中の魚もそうですね。
はい、魚は大量に使うことが分かっていましたから、ある程度、魚が泳いでいる素材を先に作ってしまい、配置は撮影さんにお願いしました。特定の意図した動きがない限り、撮影さんの判断で処理してもらってます。
――魚は、どのくらいのパターンを作られたのでしょうか?
いろいろなレイアウトにも対応できるよう、カメラアングルに合わせて準備したので40以上はあったと思います。魚の種類自体はそれほどでもないんですが、クラゲなんかも作りました。あまり登場しなかったですけど(苦笑)。僕が担当してはいないのですが、P.A.WORKS作品で魚が出てきたのは、『花咲くいろは』で菜子が主役の回(第18話 「人魚姫と貝殻ブラ」)がそうですね。
――ちなみに魚のような生き物と建物では、どちらが作りやすいのですか?
両者を比べると、形がハッキリしている工業製品や建物のほうが作りやすいです。生き物や流線型の物体は、曲面の調整が難しいですね。
――漁船の3Dモデルが登場したのはP.A.WORKS作品初と伺いましたが、どのように作られたのでしょうか?
あの漁船は実物ではなくプロップ設定をもとにしているので、実際の漁船に比べて丸みがあるんです。漁船に限らず、『凪のあすから』の3Dは全体に丸みをつけて欲しいというオーダーがあったので、車や建物にも丸みはつけていますね。
――では『凪のあすから』でいちばん苦労された3Dは?
第13話で海が荒れたときの渦や水柱ですね。本当にその描写は悩んだ所で例えば水柱でしたら、元になる素材を何パターンか作り、それをカットごとに細かく調整していきました。
――平田さんの印象に残っている3Dシーンも第13話ですか?
そうですね。あとは第1話で、光が玄関のドアを開けて登校する場面で魚がぶわっと広がっていったシーン。大事な第1話目ということもあり、担当スタッフにも何度も修正してもらったので思い入れがあります。
――『凪のあすから』はファンタジーな内容を含んでいますが、その部分で他の作品に比べて意識されたことはありますか?
今までのP.A.WORKS作品だと、現実との整合性を優先して作る場合が多かったのですが『凪のあすから』は篠原監督・演出さんのイメージを優先して、それぞれのカットでシーンの雰囲気を重視した調整していきました。全体にスローライフ感を盛り込みたいという監督の考えもあり、車のスピードもリアルではなく、かなり遅めの動きをつけています。劇中に登場するオート三輪も、実際に走っている動画を参考にしながら調整しました。また、乗っているときは窮屈な感じにしたいと監督が言われたので、車自体もちょっと小さめに作っています。物が丸かったり小さかったりすることで、作品全体に可愛らしい感じを持たせられればと。
――ほかに『凪のあすから』ならではの3Dでの表現というと、エナやぬくみ雪がありますよね。
そうですね。ただ同じエナでも作画と撮影のエフェクトで処理しているものもあります。第16話で海に入った美海の前に漂っていたり美海が覚醒したときのエナ、ぬくみ雪の結晶などは3Dです。どちらも結晶状のものなので、どう差別化するかは篠原監督にお聞きして詰めていきました。
――エナの破片の形は、平田さんのが決められたのでしょうか?
篠原監督の意見を参考に、何パターンか用意して選んでいただきました。あと第6話や第14話の巴日のシーンでキラキラ舞っていたのも3Dです。魚と同じで、こちらで配置や動きを用意するパターンと、事前に準備した素材を撮影さんに処理していただくパターンがありました。普段は処理の仕方などに関して監督と打合せする場合がほとんどで直接、撮影さんと打合せする事はほぼ無いのですが、第13話だけは大変そうだと分かっていたので(笑)、主要スタッフの打ち合わせに3Dも参加して、どこは作画と撮影で処理するか、どこは3Dが担当するかをすり合わせしました。
――魚もぬくみ雪、エナも登場するシーンは多いですから、モデリングだけでなく、動きのチェックも予想以上に大変だったのではないでしょうか。
そうですね、魚の場合はチェックをするにしても、僕が魚の動きそのものを理解していないといけませんから、個人的に勉強しなければいけないのは大変でしたね。
――まさに『凪のあすから』ならではのご苦労ですね。また、ストーリーが前半と後半で5年の時が過ぎているというのも本作の特徴ですが、3D作業で違いはありましたか?
作業のスタンスは変わりませんが、5年後の世界は以前よりさびれている世界観だという話を聞いていましたので、モブキャラクターや車の数を減らすなどの調整をしてあります。
――ここからはみなさんにお聞きしている質問です。『凪のあすから』には海と陸の人々が登場しますが、平田さんは海派ですか? 山派ですか?
海派です。P.A.WORKSに入るまでは海が近い街に住んでいたので、なじみがありますね。作業前に、3Dチームで石川県の“のとじま水族館”に魚を見に行ったりもしました。
――では、『凪のあすから』はファンタジー要素が強い作品ですが、平田さんが子供の頃お好きだったファンタジー物語、絵本はありますか?
読んで好きだった絵本は、『ロボットのくにSOS』です。小さい頃からロボットなどのプラモデルが好きだったので、それで印象に残っています。
――最後になりますが、平田さんにとって『凪のあすから』はどんな作品になりましたか?
『凪のあすから』は、枠に囚われない自由な雰囲気で作業をさせていただいた作品です。自分が勉強しなければならない部分をあらためて教えてもらいました。3Dソフトの使い方はもちろん、アイディア力や発想力の違いも仕上がりに差を生みます。以前は作画でやっていた部分も、最近は3Dで受け持つことが増えていますし、今後も作品に貢献出来るように勉強を続けていきたいですね。