INTERVIEW インタビュー

 

――梶原さんが『凪のあすから』で担当されている撮影監督というお仕事は、普段どういうことをされているのでしょうか?

簡単に言いますと、キャラクターの動きを描いた作画素材と背景素材をPCの動画編集ツールを使って合成します。さらに、そこにカメラワークを施したり、エフェクトをつけるなどの演出効果を加えて動画を完成させるのが撮影の仕事ですね。そのスタッフのチーフをさせていただいています。

――『凪のあすから』には、どのようなきっかけで参加されたのでしょうか?

社内で「こういう作品があるけど、どう?」と薦められたました。初めての撮影監督として参加したのが、同じP.A.WORKS作品であり篠原監督作品の『RDG レッドデータガール』だったのですが、実は『RDG レッドデータガール』が決定する前に『凪のあすから』のお話をいただいたんです。本当なら『凪のあすから』がP.A.WORKSで初の撮影監督作品になるはずでしたが、紆余曲折あって『凪のあすから』が後になりましたね。

――『凪のあすから』のお話を初めてお聞きになった時、どんな印象を持たれましたか?

海と陸、両方が出てくるファンタジーだと伺ったので、「海の映像処理はどうやるんだろう?」と少し身構えました(笑)。最初は「海の中の非日常的を撮影でも表現しなければならないのかな?」と思ったんですが、監督がベースは少年少女のリアルな日常と恋愛ドラマだとおっしゃったので、ホッとしましたね。また東地(和生/美術監督)さんの美術ボードもありましたので、すぐにイメージはできました。

――ほかのスタッフのみなさんも、始めは海と陸との差別化をどうしたものかと悩まれたそうですが、梶原さんはいかがでしたか?

私も最初は、海の中を表すにはフィルターワークを使うのかな? と思ったんですが、あくまでキャラクターの動きで見せていくということだったので、そこまで大変ではないかなと。ただ同時に、水面に光が当たったときにキラキラするような波模様を撮影の工程で全カット入れて欲しいという要望をいただいて、「おおっと!」って(笑)。

――全カットに波や光のエフェクトを、ですか?

はい。でも最終的には東地さんに波素材を描いていただき、それを撮影で動かすシステムを作れたので、負担は減りました。目立たないかも知れませんが、海中をよく観ていただくと全部に波模様が入ってます。あとは3Dの魚も印象深いですね。魚をどこに泳がせるかは、レイアウトに合わせてこちらで判断してちょこちょこ足してあるんですが、四苦八苦しました(苦笑)。“ここは海の中"というのが前面に出てしまうと世界観が壊れてしまうし、何も足さないのもおかしい。そのバランスは気を使いましたね。

――やはり海の中の表現には苦労されてたのですね。

そうですね。特に“リアルさ"のバランスが難しかったです。最近はデジタル技術が進化しているので、エフェクトを付けようとするとどんどんリアルになってしまう。波のハイライトの動きや光の表現も、作画でやるとキレイに納まるんですが、撮影でやろうとすると急に生々しくなってしまうんです。でもリアルでないと、水っぽさや空気感が伝わらない。そのバランスを取ることが一番苦労しましたね。

――海の波表現以外でも、他作品にはない『凪のあすから』特有の撮影作業はありましたか?

大胆な効果というわけではないんですが、普通のTVシリーズではやらないような細かな処理を撮影で積み重ねています。例えば、髪の毛の先の薄いグラデーションのボケなどがそうですね。普通は作画で髪の毛のラインを足してもらい、それを撮影でボカすことが多いのですが、『凪のあすから』は撮影ですべて処理しているんですよ。誰も気づいていないと思いますけど(笑)。あとはエナや海村の人たちの瞳ですね。エナは処理はうちの加藤(千恵/2D works)に質感を作ってもらい、撮影で動かしています。画面上でどうしたら7色に光って見えるようにするかが難しかったですね。瞳に関してはいわゆるセル処理で、目にボカシを入れています。

――『凪のあすから』のストーリーは、2クール目では5年後が描かれていますが、撮影的にも変化はありましたか?

作業が変わるわけではないのですが、まず夏っぽくも感じられた海のシーンが少なくなりましたよね。逆にぬくみ雪が陸を覆うので、冬めいた冷たい空気感を出すことは意識しました。1クール目は色彩も鮮やかに、コントラストを強めに撮影しましたが、後半は特に海村の中は光も抜けない感じなので、グレイッシュな画作りを目指しました。

――これまでオンエアされた話数で、印象に残ったシーンはどこでしょうか。

第15話で、船の上で紡が光に対して「ほんと変わらないな」と言って、光がキレたシーンです。あまりにも切なくて、初めてウルッときてしました。自分が関わった作品はどうしても仕事目線で観てしまうんですが、『凪のあすから』は素直に感情移入して観てしまう。篠原監督のキャラクター表現の上手さですよね。

――梶原さんが手がけられていた『RDG レッドデータガール』も今回の『凪のあすから』も設定はファンタジーですが、印象は違いますね。

『RDG レッドデータガール』は要所要所に出てくるものやフレーズはファンタジーでしたが、意外とリアル。『凪のあすから』は逆に、キャラクターはリアルですが出てくる画面がすごくファンタジーなんです。そこが面白いですよね。ファンタジー部分で言うと、個人的に“魚面そ"が好きなので、マスコットをぜひ作って欲しいですね。できれば、まなかがお風呂に入っているときの、真上から見た可愛い“魚面そ"を期待しています!(笑)
――ではファンタジー繋がりで、梶原さんが小さい頃に夢中になった絵本や童話は?

うちの母が本に携わる仕事をしていたので、子供の頃から絵本はすごく読んでもらっていました。例えば安野光雅さんの『はじめてであう すうがくの絵本』は、小さなキャラクターの絵を見るのが大好きでした。それとユリ-・シュルヴィッツさんの『よあけ』。夜の湖でおじいさんと孫が釣りをする絵本なのですが、ずっと暗い絵が続いて、夜が明ける最後のページだけ緑がわーっと広がっていく。それがとても綺麗で印象に残っています。あとは作家さんでいうと五味太郎さんですとか……好きな絵本は本当にたくさんありますね。

――最後に、梶原さんにとって『凪のあすから』はどんな作品になりましたか?

いろいろな意味で、“挑戦"の作品でした。背景や3Dとのバランスも、担当スタッフさんとのやり取りも重要だった『凪のあすから』の作業は、それ自体が挑戦的。どう上手くまとめればいいのかを、勉強させてもらえた作品ですね。