INTERVIEW インタビュー

――今回はシリーズ構成を担当されている岡田さんと、制作デスクの松田さん、制作の橋本さんにお話をお聞かせいただければと思います。岡田さんが制作の方、特に若いスタッフの方と鼎談されるというのは珍しいですよね?

岡田
そうですね、あまりなかったと思います。ただ、松田君はデスクとして作品の全体を見てくれているし、橋本君は本読み(プロットや脚本などについての打ち合わせ)にも参加している。脚本を書くうえで意見を聞くこともあるので、彼らが『凪のあすから』でどういうことを感じているのか興味があったんです。それにP.A.WORKSスタッフ、特に若いスタッフさんが本当に頑張っているのでスポットを当ててみたいという思いもあり、3人での鼎談を提案させていただきました(笑)。

――なるほど。ではまず松田さん、橋本さんがどういうお仕事をされているかお聞かせいただけますか?

松田
制作デスクを担当しています。作品には各話数ごとに制作進行と呼ばれるスタッフがいて、話数単位でスケジュール管理、各セクションとのやりとりを行っています。その各話制作進行をまとめるのが制作デスク。全体の流れを見つつ、各話数で問題となりそうなことを先回りして対応していくのが主な仕事です。

橋本
僕は設定制作を担当しています。アニメの設定には、キャラクター設定、美術設定、プロップ設定などあるのですが、その設定を担当のスタッフさんからいただいてデータにしたのち、各セクションの方に配布し、世界観の共有を図ることが仕事です。また制作進行として、いくつかの話数も担当しています。

――では作品についてお聞きしたいのですが、まず岡田さんが参加されることになったきっかけは?

岡田
辻君からの連絡が最初でした。辻君とは『true tears』『CANAAN』『花咲くいろは』などで組ませてもらってきたのですが、『凪のあすから』は彼の初プロデュース作品。ぬぼーっとした若者だった彼が、頼れるプロデューサーになる瞬間にぜひ立ち会いたいなと(笑)。監督がいつもお世話になっている篠原さんだということもあり、二つ返事でお引き受けしました。

――その時、作品についてどういう説明があったのでしょう。

岡田
監督は篠原さんでオリジナル作品。ファンタジーやSFの要素など、今までP.A.WORKSではあまりやったことのない題材で、思春期を描きたいということでした。それで監督を中心としたスタッフで作戦会議をしたのですが、監督は児童文学にお詳しい方なのでSFよりもファンタジーがいいと。それならば童話っぽい世界に思春期の恋愛をプラスしようということでスタートしました。

――童話にもいろいろあると思うのですが、具体的な例をあげるとしたらどんな世界観ですか?

岡田
そのものずばり、人魚姫です。篠原監督も「海の中にある街を舞台にしてみたい」とおっしゃっていたので、そこはすんなり決まりました。

――海の中に住んでいるという設定では、かなり紆余曲折があったとお聞きしたのですが(*1)、岡田さんはいかがでしたか?

岡田
私も設定段階から参加してアイディアを出していたのですが、基本は篠原監督と辻君が先頭を走ってくれていたので、わりと楽しんじゃってましたね。もちろん他のスタッフの方の意見も取りいれつつ、少しずつ固めていった感じです。

――光やまなかたちがエラ呼吸をしている当初の設定は、若いスタッフから評判がイマイチだったというお話もありましたが、松田さん、橋本さんはいかがでした?

橋本
エラがあると言っても、そこまで目立つようなものではなかったのですが、僕と松田は、そのキャラクターデザインだと、キャラクターに対して思い入れができないのではないでしょうか、とお伝えしたんです。

松田
篠原監督や岡田さんをはじめ、スタッフの皆さんは若い僕らの考えや感想も聞いてくださるんです。そういう環境で仕事ができるということは、本当に幸せなことだと思いますし、自分たちも作品作りに参加しているという気持ちが、より強くなりました。

岡田
作品を作っていると“アリか、ナシか"というジャッジを迫られることも多々あるんです。特に今回のようにファンタジーを題材にしていると迷うことが多い。そこで若い子たちがスッと言ってくれる意見が大きかったりするんですよね。

――それは今の若い人たち、視聴者に近い目線を取り入れるということでしょうか?

岡田
それもありますし、こちらの汚れた心に渇をいれてほしかったのもある(笑)。

一同
(笑)。

岡田
あとは、2クールって長丁場なので、現場を支えてくれている彼らに「この作品だったら、最後まで走りきれる」と思ってもらいたかったんです。厳しいスケジュールや現場では、作品を信じることができないと心が折れてしまうので(笑)。

――今までの作品においてもスタッフの意見を取り入れることはあったと思うのですが、これまでのP.A.WORKS作品は堀川さん(P.A.WORKS代表取締役)がプロデューサーとして舵を取られてきました。それが今回は辻さんがプロデューサー。新しいP.A.WORKS作品という側面もあるのでしょうか?

岡田
堀川さんはとにかく存在感がものすごい。本人はそんなつもりがなくても、周りが堀川さんの意見を重く捉えすぎちゃうんですよ。そこが、辻はもう少し軽いと言うか(笑)。スタッフ一人ひとりの考えを尊重して、そこから生まれたものをナチュラルに自分のやりたい方向に繋げていくタイプですね。新しいP.A.WORKS作品になるかはわかりませんが、風通しがいい作品にはなると思います。

――ちなみに松田さん、橋本さんは海の中の街という舞台に対してどんなイメージを持たれましたか?

松田
真っ先に思い浮かんだのは生命の起源です(笑)。海の中をアニメで表現するとなった時、当初は僕もリアルな方向に引っ張られていました。ただ監督が、それはやめて完全にファンタジーとして割り切ってしまおうと言われた時、なるほどと。海の中で地上と同じような生活ができる。料理が作れて、洗濯が干せて、テレビも見られる。そういう世界であり舞台だと決めてしまえば、乱暴な言い方かもしれませんが、受け入れられてもらえるのではないかと思いました。

橋本
美術監督の東地(和生)さんとも、「作品として面白ければファンタジーであっても大丈夫」というやりとりをさせていただきましたし、僕自身もそう思いました。

岡田
シオシシオの景色が今の形になったのは、東地さんが学生時代に描いた絵を見せてもらったことが始まりだったんです。白い建物と階段が入り組んだ街並みに、少年が一人たたずんでいて。その雰囲気がとても良かったんですよね。

――その後エナの登場によってエラ呼吸の設定もなくなり、作品が大きく動き出しました。

岡田
エナの存在はターニングポイントでした。それまで海底都市にしようという話も出ていたんですが、エナというアイディアが出た瞬間に「あ、童話に振れる」って全員の頭に浮かんだと思うんです。それからは物語やどういうキャラクターを登場させて組み合わせるか、ということに意識を向けました。

――前回、篠原監督と辻さんの対談で岡田さんの第一話の一稿が突破力になったとお聞きしました。

岡田
そんなことはないですよ。でも今回は世界観設定などについて、いろいろとやっていただいたことが本当に大きかったと思います。考えを重ねた結果をいただけたので、気持ちよく物語に没頭することができました。