INTERVIEW インタビュー

 

――キャラクター設定を担当されたスタッフの方についてお聞きしたいのですが、まずはキャラクターデザイン・総作画監督 石井(百合子)さんについての印象はいかがでしたか?


石井さんはスピードが凄いんです。ほかの作品では、序盤は総作監さんにガッツリ入ってもらい、徐々に各話の作監さんに作業がスライドしていくものなんですけど、『凪のあすから』は石井さんにも相当量、手をかけていただきました。作品全体で7500カット前後あるんですけど、普通、総作監さんが手を入れるのは3〜4割くらいが一般的、現実的だと自分は思っているんですが、石井さんは7〜8割修正を入れていただいてると思います。

篠原
ご本人は、集中力が続かないとおっしゃってましたけど、決してそんなことはない。頭痛を押しておでこに冷えピタを貼って作業してらしたのがとても印象的です。石井さんに限らず、時間内に作業を終えなければならない責任感は、女性のほうが強い気がしますね。僕なんかは、終盤の厳しいスケジュールのとき、泣き言ばかり言ってましたから(笑)。


たしかに「できねぇよ」というのが篠原監督の口癖だった気はします(笑)。いや、と言いつつもちゃんとその後しっかり間に合わせてくれていましたけどね。

篠原
石井さんの絵は繊細かつしなやかで品があるのに色気(艶)もある。フェティッシュな部分で言うと、自分は特に石井さんの描く髪の毛の表現が好きです。最初のPVの、まなかが海の中を回転しながら浮上していくカットの髪の毛の艶のある描写には本当に驚かされました。2クールめのエンディングは、石井さんと高橋(英樹)さんコンビの作画ですが、お二人にやっていただけるなら作画上のモチーフとして風になびく髪の毛の描写は絶対にやろうと、早い段階から決めていました。
あと……ふんどしの話はしてもいいかな?(笑)。第13話のおふねひきのシーンは、シナリオ会議の段階では祭りのハッピ姿がふんどしでと描かれていたんです。


でも石井さんの意見を聞いたら、男の子のお尻というのはなかなか格好良くは描けないだろうと。

篠原
光や紡はまだいいとしても、おやじ達の尻を視聴者は喜ぶのか? と。まあ喜ぶわけはないよね。


それで結局、描かれることはなかったんですが、シリーズ構成の岡田(麿里)さんは推してました(笑)。

篠原
制作の話でいうと、マツジュン(松田純治/制作デスク)がいなかったら完遂できたかな? というのも感じますね。デスクの仕事はスケジュール管理はもちろん、スタッフの潤滑油であることも大事。彼はよくスタッフの話を聞いて大変なスケジュールを調整していましたし、これは特筆すべきことなんですが、我々スタッフに対して言い訳も愚痴もこぼしたことがない。ひたすら耐えながら、言うべきことは言う。それができる制作は、なかなかいないです。


彼としては今までとてもお世話になった篠原監督に恩返しするつもりで頑張っていたそうです。

篠原
そう聞くとウルっとしますね……マツジュンなくして、『凪のあすから』はあり得なかったなぁ。

――キャラクター周りですと、キーアニメーターの高橋英樹さんについては、どういう印象ですか?

篠原
高橋さんはまわりからとても尊敬されている方。技術がある上に仕事に対して誠実、なにより絵を動かすことに純粋に喜びを感じていらっしゃる点で永遠の青年的なイメージ。当然人徳もあり、自分もこうありたいと願わずにいられない。自分と共通点があるとしたら…娘ラブってところくらいなんじゃ…。


正直、途中スケジュールの件で、英樹さんにご迷惑をおかけした時期があったのですが、最終話が終わったあとでお話をさせていただいたときは、「最後まで崩れずにフィルムの質を上げていった作品。この感覚は中々味わえないよ」とお言葉をいただきました。また『凪のあすから』に参加できて良かったとおっしゃっていただけて、とても嬉しかったです。

篠原
もし『凪のあすから』の劇場版があれば、駆けつけますとおっしゃってもくれましたよね(笑)。あと菅原(美佳/色彩設計)さんの力も大きかったよね。


これはトークショーでもお話しましたが、外部の方で一番社内(P.A.WORKS)にいらしゃった方。いつもPCに向かって作業されていて、菅原さんの姿が見えないと逆に驚いてしまうくらいでした(笑)。監督がいちばん菅原さんとお話されていましたよね。いつも色のチェックを並んでされていた印象があります。

篠原
東地さんの背景の光の処理が理詰めな分、情報量の少ないキャラクターの色を合わせていくのは大変なんです。特に影色には相当気を使ったと思います。ベースカラー(キャラクターの基本配色)はわりとすんなり決まることが多かったですが、2クール目に入ってちさきのコートの色がなかなか決まらなくて苦労しました。晃にかんちょうされる前と後とで衣装を替えてるんですが、両方に合うコートの色がなくて。メインで登場するキャラも七人いて、互いに色がかぶらないようにしようとすると使える色も限られてきますから。


最終話の色打ち合わせのときは、各シーンで決めなければならない色数があまりに多くて、毎日「終わんない、終わんない」というのが菅原さんの口癖でした。ん?その台詞はスタッフみんな言ってましたね(笑)。でも、こちらが想像していたものより、さらにいいものをあげてくれる。実は菅原さんは、色彩設計という立場で作品に参加されるのは初めてだったのですが、そんな感じは全くしませんでした。もちろんスタジオロードの中野(尚美)さんを筆頭に、色指定さん、仕上げ検査さん、その他大勢の仕上げスタッフの方にかなり踏ん張っていただいていたからこそ、『凪のあすから』はここまでのクオリティを保って完成したと感じています。

篠原
仕上げ検査が優秀だと最終画面の映えも違いますし、リテイクを減らすことができますから撮影さんにかかる負担も減る。メインスタッフの方以外は、あまり表に名前が出てくることはありませんが、その方たちにどれだけ助けられているか分かりません。本当に縁の下の力持ちであり、感謝してもしきれないです。リテークを減らすってことで言えば、撮影の段階で素材の不備を拾っていただいたことも数えきれず…。そう言えば温厚な撮影監督の梶原さんが一度だけ怒ったことがありましたっけ……。


第23話ですよね。撮影リテイクの内容が入れ違って伝わったことがあって、しかも、同じような間違いが何度か続いてしまいました。弊社制作スタッフ間で「エンジェル」と呼ばせて頂いていた梶原さんも、さすがに……本当にすみません!

篠原
撮影というのは作品にとって最後の砦で、撮影監督も厳しい方が多いんですが、P.A.WORKS作品の撮影監督さんは総じて、穏やかな方が多いんです。『花咲くいろは』の並木(智)さんもそうですしね。そういう性格が画作りに反映されているのかな? と思うこともあります。梶原さんも、いくら厳しい状況でもいつもニコニコ、丁寧にこちらの話を聞いてくれて何度も助けられました。内心はわかりませんが(笑)。