——今回、『凪のあすから』に参加されるようになった経緯を聞かせていただけますか?
お話をいただいたのはプロデューサーの辻さんからです。まだ『TARI TARI』の作業中で、一昨年の夏くらいでした。
——どんな内容の新作だと聞かれましたか?
海洋モノで恋愛作品と聞き、それをどう組み合わせるんだろうな? とは思いました。あと、アニメ業界的には海洋モノは大ヒットしないジンクスがあるのですが、それを打ち破っていきたいと、辻さんはかなり熱く語っていらしたのを覚えています(笑)。
——塩澤さんご自身は当初、『凪のあすから』にどんなイメージを持たれていましたか?
海の中はもっと暗いイメージがありましたね。でも、そこをリアルに描いてもいい方向に転ばないだろうと美術監督の東地(和生)くんとも言っていて、それならば海中もクリアな世界にしてしまおうと考え方を変えていきました。自分のほうでもデザイン的なアイディアは出てきましたが、前例のない世界観なので、それが『凪のあすから』らしいかどうかはまた別で。僕の中での『凪のあすから』ルール作りは難航しました。
——今、映像化された背景を拝見すると、海の建物の至る所に魚の絵や笑い顔など細かいワンポイントモチーフが多用されていますが、そこも設定にあったのですが?
あれは、東地くんのオリジナルアレンジが多いですね。美術設定には描いてないんですが、ああいうところは東地くんの上手さですね。
——劇中に登場する、塩害やぬくみ雪などのキーワードは意識されましたか?
ぬくみ雪は、背景を描く際にコントロールするだろうと思っていたので当初あまり意識していませんでした。2クール目では、既にぬくみ雪が積もった状態の街並みを美術設定として描き起こしたので、意識したのは後半ですね。塩害も直接的な描写はほぼないので、画として意識はしていません。ただ光たちの冬眠時間が5年ではなく、もう少し長かったら塩害ももっと極端に描写したかも知れませんね。ぬくみ雪で言うと、潮留家は2クール目では引っ越ししているという設定なので、新しい外観にぬくみ雪をどっさり積もらせています。ただ建物の外観そのものにはさほど影響はなかったですね。
——全体を通じて『凪のあすから』の美術設定で、他作品と違う面白さをどこに感じられましたか?
そうですね……面白いと感じるようになったのは、本当に最後のほうだけで(苦笑)。前例がない世界観でしたから、久しぶりに産みの苦しみを感じました。海洋モノで海と陸の両方に街があり、別世界でもなく同じ世界観で統一されている。環境が違うのにどうやって同じ世界だと分かるように見せるかは、いろいろ考えましたね。当初の企画では、廃線になってしまったけれども、陸と海を繋ぐ線路を置いたらどうかという案もあったんです。
——そういえば2クール目の美海の家の前には、線路がありますね。
あそこは大事なシーンだと思ったので、印象的なキーアイテムが欲しくて線路を描いたんです。他に置き所がなかったので、ちょっと強引にあそこに押し込みました。
——主要スタッフは事前にロケハンにも行かれたそうですが、塩澤さんも同行されたんですよね?
はい、漁船にも乗り込み、ムービー撮影をして見事に酔いました(笑)。ロケハンは、背景美術のネタ集めというよりも、『凪のあすから』の世界観、作品を練り込むために行った感じです。廃校の写真も参考用に写真撮影もしましたが、直接それを反映させるというよりも、空気感や雰囲気を感じることが大事でしたね。その上で、スタッフ同士が目指す方向を一致させるというのは大切な事だと思います。
——では、話は少し変わりますが、『凪のあすから』は海と陸が舞台ですが、塩澤さんは海と山、どちらがお好きですか?
どちらかというと山ですね。小学校高学年くらいの父親とのハイキングや山に行った学校の遠足も印象的でしたし、富士山に登った記憶も強いです。富士山は午後から登り始めて山小屋で仮眠を取り、夜明け前に山頂に。とてもいい思い出です。最近は高尾山に行くくらいですが。
——本作は、海をめぐるファンタジーストーリーでもあります。塩澤さんが子供の頃好きだった絵本やファンタジーはありますか?
母親が取り揃えてくれたので、メジャーな絵本はだいたい読んだ記憶はありますね、『ぐりとぐら』とかミッフィーの絵本とか。特別印象的な作品といわれると 『さむがりやのサンタ』 でしょうか。かなりお気に入りで繰り返し読んでいました。
——絵本に影響されて、絵を描かれたようなことは?
ということもなかったですね。船や車を描くのは好きでかなり描いていましたが、それも落書き程度。その後も絵はあまり描いていないんです。僕はまったく覚えていないのですが、幼稚園くらいの時に、楽器店でお姉さんがエレクトーンを弾くのを見て「これやりたい! 」と言ったらしく(笑)、高校3年までは絵を描くよりも音楽に夢中でした。
——では、なぜアニメ美術の道に進まれたのでしょう?
絵に興味があったのと、学生時代はパソコンが面白く、ゲームも大好きだったので、その頃はどちらかというとゲームクリエイターになりたかったんですよ。元々、物を作る仕事に就きたかったという事もありました。それでCGの仕事ができないかと、コンピュータ系の専門学校で3DCGを勉強しました。専門学校を卒業してから、面白そうだからと背景も1年間勉強して、それがきっかけで背景会社に就職したんです。アニメの背景を描くようになったのは、そこからですね。
——では最後になりますが、大変苦労しながら作り上げられた『凪のあすから』は、塩澤さんにとってどんな作品になりましたか?
自分の中に確実に、新しい引き出しがひとつできました。今までにないものを要求されるのは辛くはありますが、作り終わってみると満足度は相当高いです。我々は、作品を作り、お客様に観ていただいて始めて、満足感が得られる。その満足できる度合いは、『凪のあすから』は相当高い印象です。とてもいい企画に恵まれたなと思います。
お話をいただいたのはプロデューサーの辻さんからです。まだ『TARI TARI』の作業中で、一昨年の夏くらいでした。
——どんな内容の新作だと聞かれましたか?
海洋モノで恋愛作品と聞き、それをどう組み合わせるんだろうな? とは思いました。あと、アニメ業界的には海洋モノは大ヒットしないジンクスがあるのですが、それを打ち破っていきたいと、辻さんはかなり熱く語っていらしたのを覚えています(笑)。
——塩澤さんご自身は当初、『凪のあすから』にどんなイメージを持たれていましたか?
海の中はもっと暗いイメージがありましたね。でも、そこをリアルに描いてもいい方向に転ばないだろうと美術監督の東地(和生)くんとも言っていて、それならば海中もクリアな世界にしてしまおうと考え方を変えていきました。自分のほうでもデザイン的なアイディアは出てきましたが、前例のない世界観なので、それが『凪のあすから』らしいかどうかはまた別で。僕の中での『凪のあすから』ルール作りは難航しました。
——今、映像化された背景を拝見すると、海の建物の至る所に魚の絵や笑い顔など細かいワンポイントモチーフが多用されていますが、そこも設定にあったのですが?
あれは、東地くんのオリジナルアレンジが多いですね。美術設定には描いてないんですが、ああいうところは東地くんの上手さですね。
——劇中に登場する、塩害やぬくみ雪などのキーワードは意識されましたか?
ぬくみ雪は、背景を描く際にコントロールするだろうと思っていたので当初あまり意識していませんでした。2クール目では、既にぬくみ雪が積もった状態の街並みを美術設定として描き起こしたので、意識したのは後半ですね。塩害も直接的な描写はほぼないので、画として意識はしていません。ただ光たちの冬眠時間が5年ではなく、もう少し長かったら塩害ももっと極端に描写したかも知れませんね。ぬくみ雪で言うと、潮留家は2クール目では引っ越ししているという設定なので、新しい外観にぬくみ雪をどっさり積もらせています。ただ建物の外観そのものにはさほど影響はなかったですね。
——全体を通じて『凪のあすから』の美術設定で、他作品と違う面白さをどこに感じられましたか?
そうですね……面白いと感じるようになったのは、本当に最後のほうだけで(苦笑)。前例がない世界観でしたから、久しぶりに産みの苦しみを感じました。海洋モノで海と陸の両方に街があり、別世界でもなく同じ世界観で統一されている。環境が違うのにどうやって同じ世界だと分かるように見せるかは、いろいろ考えましたね。当初の企画では、廃線になってしまったけれども、陸と海を繋ぐ線路を置いたらどうかという案もあったんです。
——そういえば2クール目の美海の家の前には、線路がありますね。
あそこは大事なシーンだと思ったので、印象的なキーアイテムが欲しくて線路を描いたんです。他に置き所がなかったので、ちょっと強引にあそこに押し込みました。
——主要スタッフは事前にロケハンにも行かれたそうですが、塩澤さんも同行されたんですよね?
はい、漁船にも乗り込み、ムービー撮影をして見事に酔いました(笑)。ロケハンは、背景美術のネタ集めというよりも、『凪のあすから』の世界観、作品を練り込むために行った感じです。廃校の写真も参考用に写真撮影もしましたが、直接それを反映させるというよりも、空気感や雰囲気を感じることが大事でしたね。その上で、スタッフ同士が目指す方向を一致させるというのは大切な事だと思います。
——では、話は少し変わりますが、『凪のあすから』は海と陸が舞台ですが、塩澤さんは海と山、どちらがお好きですか?
どちらかというと山ですね。小学校高学年くらいの父親とのハイキングや山に行った学校の遠足も印象的でしたし、富士山に登った記憶も強いです。富士山は午後から登り始めて山小屋で仮眠を取り、夜明け前に山頂に。とてもいい思い出です。最近は高尾山に行くくらいですが。
——本作は、海をめぐるファンタジーストーリーでもあります。塩澤さんが子供の頃好きだった絵本やファンタジーはありますか?
母親が取り揃えてくれたので、メジャーな絵本はだいたい読んだ記憶はありますね、『ぐりとぐら』とかミッフィーの絵本とか。特別印象的な作品といわれると 『さむがりやのサンタ』 でしょうか。かなりお気に入りで繰り返し読んでいました。
——絵本に影響されて、絵を描かれたようなことは?
ということもなかったですね。船や車を描くのは好きでかなり描いていましたが、それも落書き程度。その後も絵はあまり描いていないんです。僕はまったく覚えていないのですが、幼稚園くらいの時に、楽器店でお姉さんがエレクトーンを弾くのを見て「これやりたい! 」と言ったらしく(笑)、高校3年までは絵を描くよりも音楽に夢中でした。
——では、なぜアニメ美術の道に進まれたのでしょう?
絵に興味があったのと、学生時代はパソコンが面白く、ゲームも大好きだったので、その頃はどちらかというとゲームクリエイターになりたかったんですよ。元々、物を作る仕事に就きたかったという事もありました。それでCGの仕事ができないかと、コンピュータ系の専門学校で3DCGを勉強しました。専門学校を卒業してから、面白そうだからと背景も1年間勉強して、それがきっかけで背景会社に就職したんです。アニメの背景を描くようになったのは、そこからですね。
——では最後になりますが、大変苦労しながら作り上げられた『凪のあすから』は、塩澤さんにとってどんな作品になりましたか?
自分の中に確実に、新しい引き出しがひとつできました。今までにないものを要求されるのは辛くはありますが、作り終わってみると満足度は相当高いです。我々は、作品を作り、お客様に観ていただいて始めて、満足感が得られる。その満足できる度合いは、『凪のあすから』は相当高い印象です。とてもいい企画に恵まれたなと思います。