INTERVIEW インタビュー

 

――石井さんが『凪のあすから』に参加された経緯を教えていただけますか?

当時私が参加していた『Another』の最終話くらいに、辻(充仁/アニメーションプロデューサー)さんから声を掛けていただきました。前々から、オリジナル企画を動かしているという話は聞いていましたが、まさか自分に白羽の矢が立つとは思わなかったです(笑)。

――『凪のあすから』のキャラクターデザインに関して、辻さんからどんな要望がありましたか?

柔らかい感じの絵にしたいとおっしゃってました。それを聞いて私からは「柔らかい絵は書けませんよ」と。あとキーになるフレーズが“人魚姫”であることもお聞きしたのですが、「私にはファンタジー要素はありませんよ」ともお伝えしました(笑)。今まで関わってきた作品でも魔法などを描くことはありましたが、バトル物やスポーツ物が主。ふわっとしたファンタジー感を扱ったことはありませんでした。私の作風が『凪のあすから』に合うかどうかは、実作業に入るまで自分でも分からなかったですね。

――実作業に取りかかったのはいつ頃からでしょうか。

最初のPVは『劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME』をやりつつでしたが、本編用のキャラクター表を本格的に詰める作業は、『劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME』終了直後からです。皆さんよりも少し早く取りかかれたので、半年間みっちり準備作業ができましたね。

――ブリキさんのキャラクター原案をご覧になってどう思われましたか?

可愛すぎて再現するのが辛いなぁと(笑)。キャラクター原案といいつつ、ある程度は線もクリーンナップされていたので、そのままキャラクター表として使えそうなほどでした。最初は横に原案を置き、それを見ながらキャラクター表を描いてましたが、似た感じにはなってもブリキさんの絵が持っている可愛さが出ないんです。それで原案を見ずに印象だけで自分の絵に落とし込むようにしたのですが、自分の中でなかなか納得できる絵があがらず苦労しました。今でもブリキさんの本を並べて、いろいろ研究しながら描かせていただいてます。

――海村の人たちの瞳が青いのは、ブリキさんの原案からあった設定ですか?

はい。とても綺麗でしたのでそのまま使わせていただきました。最近は瞳の中をぼかすキャラクターの作品もあったりはするのですが、この作品はなるべくぼかさないようにしています。アップの時は多少ボケみも入っていますが、キャラクターの芝居に目力もプラスしたかったのでなるべくキリッとした線を残してもらえるような処理を、監督にもお願いしました。

――初期段階で『凪のあすから』の世界を説明するために石井さんがイメージボードを描かれて、それが作業を進める上で大変役だったと伺いました。それはどのようなものだったのでしょうか。

シナリオを準備稿を読んだイメージのシチュエーションラフを自分でまとめてみたんです。キャラクターたちが、ファンタジーっぽい丸窓の家が並んだ街を歩いていたり、橋がかかった場所を歩いていたり……うろこ様の祠をイメージで描いたり。5〜6枚は描いたと思います。私自身キャラクター表しか描いたことがない人間なので、2枚くらいは勝手に自分の好きな都市を水に埋めて魚を泳がせた絵もありました(笑)。水の中ゆえの表現を気にしなくていいと監督にも言われたので、本当のファンタジーとして描かせてもらいましたね。

――2クール目では5年が経過しましたが、成長したキャラクターたちはスムーズにデザインできましたでしょうか?
難航しました。とくに美海とさゆは成長著しい時期なんですが、あまりガラッと変えてしまうと成長した姿には見えなくなってしまう。何度も細かくチェックをしてもらって、決め込んでいきましたね。また美海の髪型は、先ほど話にあったシチュエーションラフの時に私が描いたまなかの髪型が採用されることになり、まさかここで復活することになるとは! という驚きもありました(笑)。
――今回キーアニメーターとして高橋英樹さんが参加されていますが、どんな印象を持たれていますか?

第2話に美海が光の足を蹴るところがありますが、あの服のほわんとした感じとか、動きのあるお芝居づけがお上手だなと。また、『凪のあすから』はシリアスな話の中にギャグを織り交ぜ、軽いタッチで見せていくシーンもあります。こちらも第2話で、高橋さんにさゆの表情を崩して描いていただいたのですが、可愛く崩すギャグタッチのセンスが素晴らしいと思いました。

――では、これまでオンエアされた話数で印象に残ったシーン、台詞はどこでしょうか?

純粋に好きなシーンは、第6話。巴日を観ている場面ですね。背景と色彩と撮影処理の配合も相まって、とても綺麗な画になっていましたし、エンディング曲の入り方もずるい(笑)。子供時代のまなかたちが出ているシーンも、花澤さんの泣きっぷりが大好きです。

――『凪のあすから』は海と陸を舞台にしていますが、石井さんは海派ですか?山派ですか?

歳を取って山もいいなと思うようになりましたが、どちらかといえば海です。ここ10年くらいは泳いでいないので、今は波と戯れる程度ですけど。ただ山も川が流れているところは好きです。東京でも川のある場所はよく散策しています。たぶん水のある景色が好きなんだと思います(笑)。

――先ほどもお話に出たように、この作品は海を舞台にしたファンタジーでもあります。石井さんが子供の頃にお好きだったファンタジー、絵本は?

『おしいれのぼうけん』という絵本です。少年ふたりが叱られて押し入れに閉じこめられ、ねずみばあさんと出会って、押し入れの中を冒険するお話。最後、少年たちが帰る時の挿絵は、空に星が描かれているんですけど、「助かった!」という気持ちが表れている“抜け感”がとても記憶に残っています。あとは初山滋さんが絵を描かれた『たなばた』の絵本も、輪郭線のない不思議な絵柄が印象的でとても好きでした。

――では最後に、石井さんにとって『凪のあすから』はどんな作品になりましたでしょうか?

ブリキさんの絵が前提ではありますが、柔らかいキャラクターを描くために頭をフル活用させてもらった作品です。アニメーター、デザイナーとして、自分の絵のバリエーション、引き出しをひとつ増やしてくれました。まだこれから放送は続きますし、いろいろな展開がありますので、楽しみにしていてください!